私の主な研究テーマは,シンボリックAIとニューラルネットワークの融合である.シンボリックAIはモデルが学習した内容をそのまま人間が理解できる一方で,ノイズに弱く実世界での応用が限られる.ニューラルネットワークはノイズに頑健で広く応用されているが,獲得した知識は人間には読み取りにくい.両者の利点を兼ね備え,人間が読み,検証し,その上に知識を積み重ねられるAIの実現を目指している.現在は,データから論理規則を導く基盤モデルや,推論の途中で引き返す判断を学習するニューラルネットワークに取り組んでいる.
決定木やRIPPER,帰納論理プログラミング (ILP) などの記号的な規則学習手法は解釈可能である一方,新たなデータセットごとに一から学習し直す必要があり,あるタスクで得た知識を別のタスクに転用できない.そこで,タスクごとにモデルを学習させるのではなく,規則の見つけ方そのものを学習させる基盤モデル Neural Rule Inducer(NRI)を提案した(Phua, 35th International Joint Conference on Artificial Intelligence, 2026).NRIはランダムに生成した論理問題で一度だけ学習し,新しいデータセットの事例から,再学習なしで人間が読める論理規則を導く.得られる規則は,どの特徴の組合せがどの結果につながるかを表している.実行可能な論理として得られるため,人間が内容を確認できるうえ,別のシステムでも利用できる.
変数の名前を付け替えても,論理問題そのものは変わらない.このような記号論理に内在する対称性を利用して,NRIが小さな問題で学習した内容をより大規模な問題へ転用できるようにした G-NRI を提案した(Phua, 20th International Conference on Neurosymbolic Learning and Reasoning, 2026, 採択済み).6〜12変数の問題で学習したモデルを,再学習なしで最大1,024変数の問題へ適用し,元のNRIを上回る結果を得た.現在は,論理の構造を学習に組み込むことで,どこまで汎化できるのかを調べている.
探索を伴う推論では,モデルが長い推論をたどるうちに,行き詰まりに気づかないまま先に進み続けてしまうことがある.Tony Ribeiro,Tuan Nguyen,Katsumi Inoueとの共同研究では,こうした場面で引き返す判断をニューラルネットワークに学習させる方法を研究している(Can Transformers Learn to Verify During Backtracking Search?,2026年,プレプリント).その結果,判断に必要な情報が長い履歴に埋もれてしまうことと,過去の探索ステップに判断が引きずられてしまうことを見いだした.
そこで本研究では,現在の状態を明示し,Selective State Attention(SSA)を用いて,その状態と解くべき問題に注意を集中させる.論理,計画,構文解析の課題において,モデルが推論を惰性で続けるのではなく,矛盾に応じて引き返す判断を学習しやすくなることを確認した.今後は,自らの誤りに気づいて回復できるシステムへと発展させることを目指している.
Foo Wei Tenとの共同研究では,実験結果から学習するだけでなく,次に行うべき実験を選択するAIに取り組んでいる.ABLE(Active Boolean Learning Engine)は,遺伝子制御の規則の候補を提案して観測と照合し,残った候補を区別できる実験を選択する(Phua and Ten, ICML 2026 AI for Science Workshop, 2026).この一連の学習過程を,生物学的ブールモデルのシミュレーションを用いて評価している.規則を一つ出力して終わるのではなく,まだ分かっていないことをもとに,次に何を調べるべきかを決める仕組みである.
私はこれまで,深層学習と記号的論理機械学習を融合し,時系列データから遷移規則を学習する手法の確立に取り組んできた.LSTM (Long-Short Term Memory) に時系列データを入力し,対応する論理プログラムを隠れ状態として用いることで,LSTMが論理プログラムのベクトル表現を学習し,その表現を用いて次の状態を予測できることを示した(Phua, et al. 27th International Conference on Inductive Logic Programming, 2017).これにより,単一のニューラルネットワークが異なるシステムから得られる時系列データを分類し,かつ過去のデータのみから次の状態を予測できることを確認した.次に,同一システムから得られる異なる時系列データを識別できることも示し,背景知識を取り込んで予測を改善する手法を提案した(Phua, et al. IfCoLog Journal of Applied Logics, 2019).LSTMが学習した行列表現を分析することで,同一システムから得た表現が互いに近接することを示し,これらを繰り返し入力して学習させることで予測精度がさらに向上することも確認した.
これらの結果と,ニューラルネットワークのパターン認識能力を活かして,状態遷移データから直接論理規則を学習する手法を提案した(Phua, et al. 29th International Conference on Inductive Logic Programming, 2019).時系列データに内在する規則を分類することで,対象とする動的システムを表す論理プログラムを出力する.学習対象の論理規則に制約を設けることで,ニューラルネットワークの構造を変更せずにあらゆる規則を列挙して分類できるようにし,かつノイズに対する頑健性も証明した.この成果が評価され,最優秀学生論文賞を受賞した.次に,記号論理に内在する不変性を利用して,あらゆる論理規則を分類しようとした際に生じる組合せ爆発を抑制した(Phua, et al. 1st International Joint Conference on Learning & Reasoning, 2021).特に入力される状態遷移の順序に対する不変性に注目し,これを組み込んだネットワーク構造を提案した.さらに,一度の推論で複数の論理規則を扱えるようにすることで,ニューラルネットワークのメモリ消費量も削減した.これによりより大規模なシステムにも適用可能となり,実世界応用に一歩近づいた.また,記号論理で学習した結果をより理解しやすくする研究を,2021年度の特別研究員奨励費により推進した.
その後,本手法を遅延のあるシステムへ拡張し,さらに学習データに欠落がある場合の性能を従来手法と比較して,実世界データでより頑健であることを確認した.加えて,これまで同期システムの遷移にのみ対応していたモデルを,非同期システムの遷移にも対応するよう一般化した.
ニューラルネットワークなどの統計的機械学習手法には,破滅的忘却と呼ばれる問題がある.すでに学習済みのモデルに新しいタスクを学習させると,それ以前のタスクに関する知識を失ってしまう現象である.この現象を研究し,緩和を試みる分野を継続学習と呼ぶ.その中でも,各ステップで学習対象となるクラスが限定されるクラス分類タスクをクラス増分学習という.これに対しては多くの手法が提案されており,本研究では蒸留とリプレイメモリを組み合わせた手法に注目する.蒸留は学習済みモデルの知識を別のモデルに移転する手法であり,リプレイメモリは過去のクラスのデータを一定量保持しておくバッファである.従来手法では学習データ中のサンプルをそのままバッファに保持していたが,メモリには限りがあるため保持できる数も限られ,性能を頭打ちにしていた.本研究では,このリプレイメモリを広く利用可能な生成モデルに置き換える手法を提案し,関連する画像を生成モデルから得るためのプロンプト手法も考案した.これにより既存手法の精度を1~3%向上させ,また生成モデルから得る画像枚数と最終精度の間に最適なバランスが存在することも明らかにした.
本研究の成果は,国際学会にて発表し(Jodelet, et al. 1st Workshop on Visual Continual Learning, 2023),最優秀論文賞を受賞した.その後,Quentin Jodelet,Xin Liu,Tsuyoshi Murataとの共同研究で,Memory augmented using diffusion model for class-incremental learning(Image and Vision Computing,2025)とFuture-proofing class-incremental learning(Machine Vision and Applications,2025)を発表した.
ベルリン健康研究所との共同研究において,シングルセルシーケンシングデータから細胞種ごとに重要な遺伝子セットを識別する手法を提案した(Ten, et al. Frontiers in Cell and Developmental Biology 11, 2023).生物学者はこのようなデータを限られた時間で解析する必要があり,重要な遺伝子セットを迅速に同定できれば,創薬の効率化につながる.従来手法は遺伝子セットを抽出できるか否かにのみ焦点を当てていたが,統計的機械学習に内在するランダム性のため,実行のたびに異なる遺伝子セットが得られ,後段の解析を複雑にしていた.本研究ではresVAEのアンサンブルを用いることで,識別される遺伝子セットを安定化させた.さらに,活性化関数の選択が安定性に大きく影響することを明らかにし,より高い安定性を与える活性化関数を選択した.
意識の理論から,知能の仕組みについて何が分かるかにも関心がある.本研究では,意識理論に着想を得た仕組みを人工エージェントに組み込み,個々の構成要素を取り除いたときに何が変化するかを調べた(Can We Test Consciousness Theories on AI? Ablations, Markers, and Robustness,2025年,プレプリント).具体的には,エージェント内での情報の共有,自身の判断に対する確信度,内部ノイズへの頑健性を測定している.認知に関する理論を,実際に動かして実験できるシステムの上で調べる試みである.
Pretrain on Small Synthetic Data, Scale Large for Free: Symmetry-Aware Foundation Model for Logic Rule Induction [採択済み] [arXiv]
Yin Jun Phua
20th International Conference on Neurosymbolic Learning and Reasoning (NeSy), 2026.
ABLE: Choosing Perturbation Experiments to Recover Gene Logic
Yin Jun Phua, Foo Wei Ten
ICML 2026 AI for Science Workshop, 2026.
Can Transformers Learn to Verify During Backtracking Search? [プレプリント]
Yin Jun Phua, Tony Ribeiro, Tuan Nguyen, Katsumi Inoue
arXiv:2605.22221, 2026.
A Foundation Model for Zero-Shot Logical Rule Induction [arXiv]
Yin Jun Phua
35th International Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI), 2026.
Can We Test Consciousness Theories on AI? Ablations, Markers, and Robustness [プレプリント]
Yin Jun Phua
arXiv:2512.19155, 2025.
Memory augmented using diffusion model for class-incremental learning
Quentin Jodelet, Xin Liu, Yin Jun Phua, Tsuyoshi Murata
Image and Vision Computing, 161, 105600, 2025.
Future-proofing class-incremental learning
Quentin Jodelet, Xin Liu, Yin Jun Phua, Tsuyoshi Murata
Machine Vision and Applications, 36(1), 16, 2025.
Variable Assignment Invariant Neural Networks for Learning Logic Programs
Yin Jun Phua, Katsumi Inoue
18th International Conference on Neural-Symbolic Learning and Reasoning (NeSy), 2024.
DEGNN: Dual Experts Graph Neural Network Handling Both Edge and Node Feature Noise
Tai Hasegawa, Sukwon Yun, Xin Liu, Yin Jun Phua, Tsuyoshi Murata
Pacific-Asia Conference on Knowledge Discovery and Data Mining (PAKDD), 376–389, 2024.
Class-Incremental Learning using Diffusion Model for Distillation and Replay [最優秀論文賞]
Quentin Jodelet, Xin Liu, Yin Jun Phua, Tsuyoshi Murata
1st Workshop on Visual Continual Learning, ICCV 2023.
resVAE ensemble: Unsupervised identification of gene sets in multi-modal single-cell sequencing data using deep ensembles
Foo Wei Ten, Dongsheng Yuan, Nabil Jabareen, Yin Jun Phua, Roland Eils, Sören Lukassen, Christian Conrad
Frontiers in Cell and Developmental Biology, 11, 2023.
Learning Logic Programs Using Neural Networks by Exploiting Symbolic Invariance
Yin Jun Phua, Katsumi Inoue
30th International Conference on Inductive Logic Programming (ILP), 2021.
Learning Logic Programs from Noisy State Transition Data [最優秀学生論文賞]
Yin Jun Phua, Katsumi Inoue
29th International Conference on Inductive Logic Programming (ILP), 2019.
業績と研究活動の一覧: Google Scholar researchmap dblp
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